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  「日・米・独の企業経営比較による
         日本の製造業の経営力強化ポイント」
 

       第5章 今後の日本の製造業の経営力強化ポイント
代表取締役社長 中田 耕治


2.意思決定のスピードアップ
意思決定のスピードアップに関しては、残したいベスト10の「@長期志向の経営(投資・意思決定)」「B現場・現物主義経営」「Hボトム・アップ」が、また捨てるべきワースト10の「D言葉より“あうん”の呼吸重視」などが該当している。特に残したいベスト10の1位に「長期志向の経営(投資・意思決定)」がきていることに、日本の経営者が欧米に対して感じている優位性をみることができる。
しかし、この件に関しては、日本の経営者がどのような視点で長期的な経営を見ているかと言うことに疑問が残る。つまり、先を読んだ経営をしているのか、それとも現状を変えることにおいて優柔不断で先送りしているだけなのかである。前者の意味ならば当然素晴らしいことなのであるが、しかし、トヨタをはじめ日本の一流企業がやってきたことは欧米の物まねが多いと言うことから考えると、先を読んだ長期的な経営ばかりではないようである。しかしながら、日本のGDPが世界第2位であることは先を読んだ経営を実行できてきたことを証明しているとも考えられる。
アメリカの企業が多くのM&Aや組織改革、リストラをダイナミックに繰り返して成長してきたことは過去の歴史を見ても、また最近の企業の開業率・廃業率の高さを見てもわかることであり、その原因として短期的な最大利潤の獲得と株主への分配(株主志向)が企業目的にあるからである。株主は会社に対するロイヤリティはないため、利益配当の少ない会社から高い会社にすぐに移動するが、それがまた企業の業績に大きく影響する仕組みになっているから、株主志向は当然なのである。
しかし日本経営で、意思決定を先送りしているという現状があることも見逃すわけにはいけない。つまり、官公庁を含む多くの企業の不祥事が、手遅れの状態で新聞に取りあげられていることから明らかである。なぜここまで問題が大きくなる前に対処できなかったのかと思われることがたびたびあるのである。これは、残したいベスト10の「Hボトム・アップ」が、良くない面の結果として現われていると思われる。
日本の会社の意思決定は、部、課といった下部組織からボトム・アップで上がってきた案件を経営会議や常務会などで審議決定し、30人、40人の大型の取締役会でこれを追認していた。ここで決められたことは事業部やスタッフ部門などの実行部隊が実施するが、取締役は部門の長を兼ねていることも多く、意思決定をする取締役と決定を実行に移す部門の長が同じ、いわば自分が決めて自分で実行する形なっていた。つつまり、ボトム・アップの階段が多いことや最終決定する取締役会のメンバーが多すぎること、さらに決定者と実行者が同じであることが、意思決定が優柔不断になり決定が遅れ、そして執行に、迅速性、確実性、信頼性がなくなる原因となっていたのである。自分が決めたことを自分で実行する従来の形では企業の腐敗を防ぐ方法はない。だから取締役会をスリムにし、しかも社外出身者が過半数を占めるアメリカ型にし、執行役員から取締役への移動、あるいは兼職は原則として行わないなど、意思決定と執行の分離は日本企業の経営にとって避けて通れない課題である。
しかし、ボトム・アップがすべて悪いのではなくよい面が多々ある。まず意思決定にかかわる社員に「経営への参画意識」を持たせることができるメリットがある。社員は「経営への参画意識」を感じたときに仕事に面白さを感じるものである。これは欧米では経営層の一部に限られているのであるが、日本ではほぼ全社員にこの機会がある。この経営への参画意識は、社員の能力発揮には非常に大切なことと思われる。また、「協働の意思」をこのボトム・アップのシステムを通して直感することができることも大きなメリットである。この協働の意思は組織運営にとって組織を上手くまとめると言う点で大事な要素である。またボトム・アップの段階で、さまざまな仕事現場の情報(特に問題点)が盛り込まれていくこともメリットである。トップ・ダウンが主体のアメリカでは、経営層にはなかなか現場の問題点が上がってこないことがあり、そのために適切でない戦略が立てられることも多い。また、間違った情報ですばやく意思決定してしまい、取り返しのつかない結果になることが発生する。
ワースト10の「D言葉より“あうん”の呼吸重視」はぜひとも排除したい意思決定の項目である。今までは日本の会社が単一思考の集団であったからそれでも問題は少なかった、いや、トップの間違った考え方が伝達の中で是正されていくといったメリットも大きかったかも知れない。しかし、正社員、派遣社員、パート社員、外国人社員など、これからさらに進む社員の多様化を考えた場合、しっかりとした会話の中で意思決定を行うことが、混乱を防ぎ迅速な執行を実現するために必要なことである。

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